第三章:ND-14 敵でも味方でもない、第三の選択肢

偽できない理論

これはチェンジ理論の記事です

より番号が若い記事の続きとなります。分からない方はこちらをお読み下さい。

偽できない理論(ND)目次

2019年1月2日

第三章:ND-13 有機体・概念+他動詞表現=?

2019年1月15日

096.心身の緊張がもたらすパラドクス

どんな分野でも、結果を出すには有益な失敗が不可欠である。そうは言っても、わざと失敗する必要はない。結果がうまくいくのに越したことはないだろう。実力があるのに、なぜか失敗ばかりというなら、それは問題だ。その場合、以下のことを理解しなくてはならない。他人や結果はコントロールしようと思えば思うほど、そうできなくなる。このパラドクスを理解するカギは、緊張にある。今回は、心身の緊張とパフォーマンス低下の関係に目を向けてみよう。

097.緊張にも果たしている機能がある

仕事やスポーツ、試験や社会復帰で結果を出すのに必要なのは適度な緊張感であり、過度な緊張ではない。過ぎた緊張が能力を下げることは誰もが体験的に知っているはずだ。前述した通り、生存と繁殖に貢献しない機能が遺伝されることはない。では、心身の緊張は何の役に立っているのだろうか。結論から言えば、緊張とは生存の危険を回避するための準備である。狩猟採集時代、生存を脅かす危険はいくらでもあった。例えば、ライオンに遭遇した場合を想像してみて欲しい。低く構えた姿勢から察するに、安全でないことは明らかだ。本能行動を司る脳幹が提示する選択肢は二つ。戦うか、逃げるか、どちらかである。おそらく選ばれるのは後者の逃争だろう。ただし、どちらのトウソウを選んだとしても、同じ反応が生じる。筋肉を収縮させて、運動の準備をするはずだ。つまり、身体的に緊張が生じる、ということである。

098.精神的な緊張は”トウソウの動機づけ”

筋肉が収縮する以外にも、心拍が増加し、血圧が上昇するはずだ。ドキドキしたり、身体が火照ったように感じるかもしれない。ライオンから逃げる準備は整った。これ以上、例えば、精神的に緊張する必要などあるのだろうか。しかし、ここで精神的に緊張できなかった個体は子孫を残せていない。なぜなら、逃げる動機がないからだ。私たちが恐怖心や不安と呼んでいる感覚は、逃げるための動機づけに相当する。精神的な緊張が逃走すると決めさせ、身体的な緊張が逃走を現実のものにする。身体的な緊張、精神的な緊張、二つがセットで生じなければ、逃げることはできない。精神的に緊張する機能を持たない人類がいたとしても、彼の人生は短かったはずだ。危険を回避するのに通常ルートで認知している余裕などない。つまり、緊張は理性の管理下にないということである。意識的に止められないのは当たり前と言えるだろう。

099.現代人は対人関係の危険に恐怖する

精神的な緊張は戦うための動機づけにもなる。適度であれば、パフォーマンスを高めてくれるだろう。例えば、竜巻や他民族の襲来を発見したときなどは、心身の緊張がとても役にたつ。しかし、現代社会で身体的な危険に晒される機会は滅多にない。私たちが緊張するのは、主に人間関係の危険に対して、である。例えば、結婚式のスピーチで緊張する人は少なくない。初対面の人と話したり、仕事のミスで叱られるときにも心身は緊張している。恐怖心や不安、心拍の増加、血圧の上昇が生じているはずだ。どんなに失敗しようとも生命が奪われるわけではない。しかし、それらは嫌悪や見下し、軽視の脅威に晒される分、紛れもなく危険な状態だ。

100.敵でも味方でもない、第三の選択肢

例えば、仲の良い親友と話すのに緊張するような人はいない。嫌悪や見下し、軽視される危険がないことを知っているからだ。反対に面識のない他人に緊張する人は少なくない。安全かどうか、見極めがつくまでそわそわするかもしれない。ではもし相手が声を荒げたり、睨んできたら、心身はどう反応するだろうか。安全な相手でないことはすぐに分かる。たいていの場合、選択肢は二つ、戦うか、逃げるかだ。ライオンと遭遇したときと反応は変わらない。トウソウに備え、身体も精神も緊張することになる。それがもし採用面接の場なら、聞かれてもいないのに有能さを誇示するかもしれない。飛び込み営業の場合、上ずった声でぎこちなく話せば、不信感を与えてしまう。プレゼンで頭が真っ白になって言葉に詰まることもあるだろう。危険の対象が敵ならば、それらの反応が役に立ったかもしれない。しかし、面接官やプレゼンの聴衆は敵ではない。だからと言って味方というわけでもない。集団の利害関係者というのは、役割を分業する仲間、である。協力してことを成そうとする仲間に対して緊張するというのは、本来お門違いなのだ。戦うか、逃げるかという二択択一で考える必要はない。第三の選択肢は、信頼を築く、という選択肢である。

101.パフォーマンス改善の鍵は緊張にある

人である限り、基本的恐怖心がある点は変わらない。スポーツ選手の場合、同じ土俵で勝負するぐらいなら、力量に致命的な差があるとは考えづらい。決定的な違いを生み出すものがあるとしたら、それはおそらく心身の緊張だろう。つまり、無駄な緊張があるかないか、それがパフォーマンスを左右しているということである。さらに言えば、心身の緊張が強いのは、その状況を危険とみなしているからだ。例えば、観客やコーチ、ライバルの評価を恐れているかもしれない。何らかを危険視していない限り、逃げるか戦うか、考える必要がない。すなわち緊張する理由がない、のだ。練習では勝てるのに本番で勝てない選手はいくらでもいる。彼らは何を恐れているのだろうか。記録や順位に固執しない人ほど上位に位置するのはどうしてだろうか。その理由が明確に分かっていれば、彼らをどう指導するべきかすぐに分かるはずだ。

102.起きた結果をそのまま受け入れる

重要な局面に置かれたときほど人は緊張する。基本的恐怖心の影響は年齢や地位、立場とは関係ない。緊張にさらされた人はよくこう言う。焦るな、緊張するな、と。残念ながら、この類の言い聞かせが役に立つことはほとんどない。緊張が理性の管理下にないからだ。緊張してはいけないという文脈は、私は緊張しているという前提を含んでいる。緊張に対する自覚が深まることで、むしろ余計に緊張が増すだろう。心身の緊張というのは生理反応の一種である。それは例えば、汗をかくという反応と同じだ。汗をかくな、と言い聞かせたところでそれが止まるものではない。これまでの内容を踏まえれば、例えば、プレゼンの直前にどう考えるべきかが分かる。まず、目の前の聴衆は味方でも敵でもない、仲間だ。自分の役割をまっとうすればそれで良い。いかに言葉を尽くそうとも、彼らのの解釈そのものを操作することなど不可能だ。不本意な結果になったら、それが今の実力である。起きた結果をそのまま受け入れ、次の機会に備える以外、できることはないだろう。

第三章:ND-15 “コントロール可能なエリア”

2019年1月17日

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