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精神医療に対するよくある10の誤解

精神医療は良くも悪くも誤解されやすい分野です。高血圧や糖尿病などと違い、バイオマーカー(目に見える生理学的な指標)がないため、間違った解釈でもすぐ一般に広まりがちです。

よくある誤解について解説しておきましょう。

    精神疾患(精神障害)という病気がある
    日本の精神障害の患者数は増えている
    精神障害は科学的な検査で診断される
    ストレスからうつ病になることがある
    向精神薬を服用すれば精神障害は治る
    最近の向精神薬は危険な副作用がない
    精神障害の原因は神経伝達物質異常だ
    精神障害の原因は先天的なものである
    精神障害を放置すると症状が悪化する
    これらの誤解を精神科医は知っている

精神疾患(精神障害)という病気がある

精神症状の出る身体の疾患はありますが、厳密に言えば精神の疾患というものはありません。

そもそも疾患という概念は、原因と症状の因果関係が明確なものを指す言葉です。精神科の診断名はいずれも障害か症候群に分類されます。

精神疾患という表現はメディアによる俗語であり、もともとの英語はmental disorderです。disorderとは障害、つまり、〜するのが難しい、〜できないという状態を意味しています。

例えば、視覚障害とは見るのが難しい、見えづらい、という状態を意味します。原因となる疾患は緑内障や網膜剥離などがあげられるでしょう。しかし視覚障害という病気はありません。

同様に、気分障害や不安障害、適応障害、発達障害、そのものはいずれも病気とは言えず、しかも障害の原因となった疾患もありません。

日本の精神障害患者数は増えている

統計上で見れば、精神疾患(障害)の患者数は明らかに増えています。精神障害全体の患者数の場合、1984年の推計は9万7千人、2014年は約392万人と30年で40倍に増加しています。

ただしこの統計は、精神障害が増えたということではなく、あくまでも精神障害の診断数が増えた、ということを示しているに過ぎません。

同時に精神科や心療内科の施設数が激増したことは、精神障害が増えたから精神科が増えたという可能性と、精神科が増えたから精神障害が増えたという可能性の両方を示唆しています。

後者の可能性が高いと思われる理由は、病院が診療報酬を請求する際、傷病名が必要になることにあります。診断名をつけなければ、医療機関は報酬をもらえません。つまり、精神科で悩みを開示すると、日常レベルのものでも精神障害と診断される可能性があるということです。

精神障害は科学的な検査で診断される

血液検査やMRIなどの客観的な検査はなく、患者の訴える内容が診断マニュアルの要件にどの程度該当するか?を医師が主観で判断します。

国際的なマニュアル、DSM(精神障害の診断と統計マニュアル)の内容は改訂の際、専門家の多数決によって診断名の追加や削除、診断要件や除外規定の変更などが行われます。しかし、その判断基準に科学的な根拠はありません。

もともとDSMは統計を取るための分類マニュアルであり、自然科学的な原因論ではなく、その線引きは人為的なものです。あくまでも確認できる症状のみを分類したものに過ぎません。

それが診断でも使われるようになったのは、1980年のDSM-Ⅲ以降で、ちょうど新しい抗うつ薬、SSRIが発売される少し前からです。

DSMの妥当性、信頼性の低さは、その編集に携わった専門家からも、科学的な根拠がなく、信頼に値しない、と痛烈に批判されています。

ストレスからうつ病になることがある

あるかどうかは、うつ病の定義にもよります。

DSMが導入される以前、原因が明確にある精神的な不調と精神障害は区別されていました。

例えば、配偶者と死別した場合、二週間以上に渡り落ち込み、食欲や興味をなくすことは当たり前の反応です。それは病気ではありません。

DSM以前の伝統的な精神医療は、これといって理由がない、理由に対して症状が大きすぎる場合のものだけを精神障害と認めてきました。

そうでなければ、人生の悩みはすべて病気、ということになります。この除外規定がなし崩しに撤廃されたのが2000年前後、製薬企業によるうつ病の啓発活動が盛んになってからです。

ストレスによる抑うつは(おそらく疲労ですが)精神科に行けばうつ病と診断されるでしょう。

向精神薬を服用すれば精神障害は治る

向精神薬を服用しても精神障害は治りません。風邪における解熱剤の位置づけと似て、回復させるのは、あくまでも本人の力になります。

向精神薬は大きく幻覚や妄想に対する抗精神病薬、不安や不眠に対する抗不安薬、抑うつや不安に対する抗うつ薬、の三つに分類されます。

いずれも病気や症状を治癒、緩和するようなイメージのある名称ですが、もとは神経遮断薬、筋弛緩薬、精神賦活薬と呼ばれていました。

それぞれ正確な表現をすれば、抗精神病薬(神経遮断薬)は興奮を強制的に鎮静させる薬、抗不安薬(筋弛緩薬)は麻痺しない程度の筋弛緩をもたらす薬、抗うつ薬(精神賦活薬)はモノアミン神経伝達を撹乱する薬、と言えるでしょう。

それ以上の効果、抗精神病、抗不安、抗うつ効果が認められたのは発売当初のみ、現在は効果が出ることもある、といったところでしょう。もし服薬期間中に症状が緩和したとしても偶然か、薬以外の要素によるものと考えられます。

最近の向精神薬は危険な副作用がない

副作用がないという表現は、古いタイプの向精神薬ほどではないという前提が隠れています。向精神薬はいずれも、一般的な抗生物質などと比較して数倍、副作用が生じる危険な薬です。

吐き気やめまい、眠気、焦燥といった軽度の副作用から衝動性や攻撃性、より重篤な不安や希死念慮が増すなど致命的な副作用もあります。

それぞれ長期服用した場合、候精神病薬は器質的な脳変異、抗不安薬はより重篤な不安や薬物依存、抗うつ薬はうつの慢性化や双極性障害の発症リスクが高まることが報告されています。

長期間、服用している向精神薬を止める場合、いずれも覚せい剤と同様の離脱反応を引き起こすため、安易な減薬、断薬はとても危険です。

精神障害の原因は神経伝達物質異常

1950年代、神経伝達物質の濃度異常が精神障害を引き起こすという仮説が多数、提唱されたのは確かです。しかし、それらの仮説が科学的に証明されたことは過去、一度もありません。

神経伝達物質仮説、いわゆるモノアミン仮説はアメリカ国立精神衛生研究所の正式見解で、因果関係は見られない、と否定されています。

医療ジャーナリストのウォッターズは、モノアミン仮説は科学的根拠のない、文化的に共有されている物語である、と著書で述べています。

1987年、第三世代の抗うつ薬、SSRI(プロザック)がイーライリリーから発売された際、効果性を説明するのにモノアミン仮説が使われました。それが事実かのように喧伝された結果、現在も一般の認識として信じられています。

精神障害の原因は先天的なものである

脳の異常が原因ではないかという仮説は昔からありますが、モノアミン仮説と同様に、科学的に証明されたことは過去、一度もありません。

遺伝的な原因があるという説も同様で、遺伝子研究によって分かったことは、精神障害に遺伝的な原因は見つからないということだけです。

精神障害の原因論は紀元前の体液説を始め、様々なものが提唱されていますが、もちろん、科学的に証明されたことは一度もありません。

それでも先天的な脳の異常が原因という説が根づよい理由は、クレペリンの影響でしょう。

1980年代、クレペリンの精神障害分類で器質性(物理的な損傷が原因のもの)という分類があり、その認識が残っているものと思われます。

精神障害を放置すると症状が悪化する

余計なことをせず心身とも休養を取れば、(周囲の理解があれば)自然とよくなるでしょう。

抗うつ薬が登場する以前のうつ病は、放置すればいずれ高い確率で治る病気と認識されていました。長期化、慢性化、難治性のものが増え始めたのは抗うつ薬が登場して以降のことです。

WHOの大規模調査を始め様々な研究から、統合失調症は投薬治療を受けた患者より、治療を受けなかった患者のほうが長期的な回復度が高いことが分かっています。なお、投薬治療率が低い発展途上国ほど、回復度は高いようです。

投薬治療が主流になる以前の精神障害は、いずれも治療するかどうかと関係なく、時間は掛かっても自然と寛解するものだったそうです。

これらの誤解を精神科医は知っている

これらの情報が精神医学や臨床心理学の教科書に記載されることはありません。そのため、医療従事者でも知らない方は多くいるでしょう。

精神医療にも様々な派閥があり、精神不調の原因は心理的な葛藤にあると観る精神療法のグループ、他人や社会との相互作用に原因があると観る社会学的精神医療のグループもあります。

しかし主流を占めるのは、脳や神経の異常に原因があり、投薬治療がもっとも有効と観る生物学的精神医療です。製薬企業による資金援助もあり、経済的に有利なグループと言えます。

精神医療分野の経済は製薬企業の資金援助がなければ成立しません。たとえこれらの誤解を知っていても、多くの医療従事者はそれを公言しないでしょう。なぜなら職を失うからです。

なぜメンタルヘルス1.0は廃れないのか

精神医療が役に立つものなら精神障害は減るはずです。しかし、近代的な精神医療が登場して以降、精神障害の診断は確実に増えています。

現代の精神医療が、精神障害を治す、減らすという目的に貢献していないことは明らかです。

ではなぜ精神医療はなくならないのでしょう?まったく違う目的に貢献しているからです。

精神医療のメリットは別のところにあります。

例えば、生物学的精神医学が衰退すれば、多くの製薬企業は利益を出すことができなくなります。大半の精神科医、臨床心理士は職を失うことになり、失業者が爆発的に増えるはずです。

恩恵は医療関係者だけのものではありません。

もし精神障害という概念がなければ、過労の会社員は休職届を出す理由がなくなります。精神障害の障害年金は止まり、福祉職の失業者も増えるでしょう。小学校の教師は騒ぎ立てる子どもに対し、根気よく諭さなくてはなりません。

メンタルヘルス1.0が廃れないのは、医療側にも消費者側にも相応の利益があるからです。しかし、その利益を得るのに支払うコストは、今後ますます大きなものになっていくでしょう。

必要悪としての精神医療が求められるのは止めようがありません。大きなしくみは変えるものではなく、一人ひとりの選択と行動が変わることによってあくまで結果的に変わるものです。

自分や家族、友人、大切な誰かの命と人生を守り、健康的に過ごすため、まずはあなた自身が正しいメンタルヘルスについて学んで下さい。

あなたが精神医療従事者なら、問題のある分野であることは知っているはずです。事実を知りながら見て見ぬフリを続ける罪悪感から解放されるため、ぜひ私たちの活動にご協力下さい。

メンタルヘルス2.0推進委員会は、一人ひとりがメンタルヘルスのリテラシーを高められるよう、公平な情報を提供することを約束します。