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パワハラ騒ぎを起こすモンスター社員
何かにつけてすぐ、パワハラを受けた!と騒ぐモンスター社員が増えているそうです。暴言や暴力をパワハラと言うならまだ分かります。
しかし、単なる注意や軽い叱責をパワハラ扱いされてしまったらもう仕事になりません。
まず無用な時間を取られることになりますし、気分を害することもあるでしょう。どう接するべきか、分からなくなるかもしれません。
パワハラ騒ぎを起こす社員が一人でもいれば、企業や組織の生産性は著しく低下します。
この深刻な問題を解決するには、彼らがどんな心理からパワハラ騒ぎを起こすのか、そのメカニズムをよく理解することが先決です。
結論から言いましょう。
あなたの部下や社員がパワハラ騒ぎを起こすのは、被害者の立場を確立するためです。
被害者の立場=何かをしてもらう権利
実際に被害を受けたいという人などいません。しかし、被害者の立場であれば、それを欲しがる人は多くいます。そのことは交通事故の過失割合の例で考えればすぐ分かるはずです。
例えば、5:5よりも9:1のように、なるべく自分の過失割合が少なく、被害者寄りになることを多くの人が望むのはなぜでしょうか?
その方がお金になるからです。
お金と被害者の立場、一見、まったく異質の概念ですが、一つ、共通点があります。
いずれも債権になる、という点です。
債権とは、端的に言えば誰かに何かを(して)もらう権利です。それに対し、誰かに何かを(して)あげる義務のことを債務と言います。
どちらが欲しいか?問われたら、おそらく百人中百人が債権の方を欲しがるはずです。
被害者の立場は、債務者、つまり加害者に何かを(して)もらう正当な権利になります。
自分が被害者、あなたが加害者という構図にしたがるのも不思議なことではありません。
人の解釈や認知というのは、自分に都合がよいよう簡単に歪みます。あなたのことを加害者にしたがるのは、被害者になって債権を手に入れるという無意識の意図があるからです。
人の認識=事実をデフォルメしたもの
まっとうな方ならこう思うはずです。
客観的なパワハラ行為があったわけではない、妄想でパワハラ呼ばわりされても困る、と。
その通りです。あってはなりません。
しかし、あってはならないからと、それがあるという現実から逃げるのもいけません。
そもそも人の認知は客観的な事実を捉えることができません。脳が認識しているのは、事実を自分なりにデフォルメしたもの、です。
チェンジ理論では、これをマップと呼んでいます。マップは文字通り、地図とよく似たところがあります。地図を見ながら初めての土地を訪れたとき、地図のイメージと現地の雰囲気がまるで違うということはよくあるものです。
例えば、坂道や人通り、建物の高さ、騒音、明るさ、お店が開いているかどうかなど、こういった情報が地図に載ることはありません。
なぜなら、それらの情報は、目的地に到着するという地図の用途に貢献しないからです。
解釈の違いを決めているのは使用用途
地図は現地そのものではありません。膨大にある現地の情報を単純化させたものです。それと同じように、膨大な事実を単純化させたもの、それがマップ、つまり人の解釈なのです。
たとえ同じ事実を見聞きしても、脳内で描かれるマップが異なるため、事実をどう認識し、記憶するか?は人によって差が生まれます。
では、マップの違いはどこから生じるのか?
使用用途や目的、つまり意図の違いです。
例えば、メディアが政治家の発言の一部を切り取り、必要以上に言動を追及する、いわゆる切り取り報道の例えが分かりやすいでしょう。
発言の前後にある文脈が削除されるのは、その情報が番組や企画の意図に貢献しないから、
政治家を批判するという意図がある場合、それを邪魔する情報や貢献しない情報が削除されるのは、むしろ当たり前と言えるでしょう。
被害者になるのに不必要な情報を消す
パワハラ騒ぎを起こす社員の脳内でも、切り取り報道と同じことが行われているわけです。
あなたを加害者にするという結論ありきで、事実の編集が行われます。自分の非や能力不足という情報は真っ先に削除されるでしょう。
叱責の声の大きさが増幅され、怒気や軽蔑、嘲り、悪意をはらんだものに歪曲される。
軽く肩を叩かれたときの触覚が何倍にも歪曲され、痛みという位置づけで記憶される。
週に一回の叱責がいつも、毎日、ずっと、必ずのような普遍的な認識に一般化される。
実際の地図が傾斜という情報を削除するのは、それが使用用途にそぐわないから、です。
それと同じように、パワハラ騒ぎを起こす社員のマップから自分の非や能力不足、叱責された経緯が削除されるのは、被害者になるという意図にそぐわない、邪魔な情報だからです。
モンスター社員は悪意のない当たり屋
あえてストレートな例えをすると、パワハラ騒ぎを起こす社員は当たり屋と似ています。
違うのは、悪意がないという点でしょう。
当たり屋はそれが他人の価値を奪う行為であることを知っています。しかし、パワハラ騒ぎを起こす社員にそんな悪意はありません。
どちらかと言えば、奪われた価値を取り返すという正当性に近い感覚を持っています。
自由、尊厳、個性、時間、奪われた!と感じているものは社員それぞれあるでしょう。
会社や組織で働いている以上、それらが削られるのは致し方ないことです。もちろん、それは決して奪われたものなどではありません。
代価として差し出したもの、です。
与えられた役割を果たし、会社や顧客の役に立っていれば、それらと引き換えに報酬や待遇、やり甲斐や自尊心を得ることができます。
パワハラ騒ぎを収めるのに必要なもの
自分の役割をまっとうし、活躍できている社員が被害者の立場を求めることなどありません。
差し出した代価と同等、もしくはそれ以上にやり甲斐や自尊心を得られているからです。
被害者になって債権を得ようとするのは、仕事で活躍できていない、代価にふさわしい価値を得ることができていないからでしょう。
彼らは内心、孤独感や罪悪感、劣等感、無力感を感じながら過ごしているはずです。
もちろん、報酬や待遇をよくする必要はありません。彼らが求めているのは、たいていの場合、物質的な価値ではなく、周囲からの評価や注目のような精神的な価値のほうです。
機嫌を損ねると何を言いだすか分からない。
そうやって腫れ物に触るような特別対応をする必要もありません。まだ成長の過程にある一人の人間として、その心理をよく見て下さい。
差し出した代価に見あう価値を得られていないのは経験や能力が不足しているからであり、劣等感や無力感は地道に努力を重ねるモチベーションに変えていかなくてはなりません。
パワハラ騒ぎを起こす社員に対して必要なものは毅然さです。どんなに騒いでも特別扱いはしない、と毅然さをもって対応しましょう。
毅然さを生み出すのは、以上のロジックに対するあなたの確信です。毅然とできないなら、まずは彼らの心理をよく理解して下さい。